「一人宗教ホームページ」での、法一(H)
と未知の人(X)とのやりとりである。
X はじめまして。ひまつぶしにネットで泳いでいたら、偶然ここに漂着しました。
H ありがとう。あなたは、ここにアクセスしてくれた、初めての人です。開設して数ヵ月、何一つ反応はなかった。もっとも、何も焦ってはいませんが。自分で打ち込んでみて気づきましたが、丁寧すぎる感じになっていますね。ふだんと同じの、標準語と関西弁のちゃんぽんで書かせてもらいますわ、これからは。
X 返事がくるのに、一週間もかかりましたね。
H 友人のコンピューターを、週に一回、使わせてもらって書いているからね。ホームページ作成も、その友人がやってくれた。毎週一回三千円払って、一時間位使わせてもらっているんですわ。
X また、一週間。不便きわまりないことをやっていますね。自分でコンピューターを持った方が、安上がりでしょう。
H 一人宗教は、便利さを求めない。経済効率も、求めない。
X ここまでで、もう三週間も経ってしまった。
H 構わんやないですか。何も急ぐことは、ありませんな。急ぐとろくなことはない。「一人宗教 法一」という名刺を32歳になった頃に刷ってから一年経つが、百枚程も配ったのに、反応は一つもなかった。やぶれかぶれでホームページを開いたら、一人ひっかかって来た。それで十分や、いまのところは。
X これだけで一カ月。ちょっと質問してみますか。あなたが教祖なんですか。
H 答えましょう。教祖はいない、私ではない。信者はいない、あなたではない。
X ふーん。何かしなければいけないとかは、あるんですかね。
H そんなものは、ない。いや、ないではないか。これをしろという命令はないが、してはいけないという禁止は、ある。
X 何ですか。
H いまはまだ、思いつかない。殺すなかれとも、いまは言わない。何か起こったら、そのときにひらめくだろう。しろとは言わんが、した方がいいというものは、ある。
X 何ですか。
H 散歩だ。それだけ。
X それだけですか。ふと思いつきました。あなたは、どこにお住まいですか。
H 新宿区・高田馬場だ。
X 私は大田区。「雑色」という駅の近くです。目黒のあたりが、私たちの住所の中間地点になるんじゃないですか。そのへんで会いませんか。二人とも、歩いてそこまで行くことにして。来月十日でどうですか。
H ええですな。ここまでで、季節が一つ、過ぎてしまった。待ち合わせ場所と時間は・・・。
目黒・権之助坂の喫茶店での二人の会話。
X はじめまして。
H 女性だったんですか。ぬばたまの黒髪がいいですな。
X 何、ぬばたまって。教科書に載っていたかしら。
H ひょっとして、高校生なの。
X そう。
H ふーん。
X 会うことが目的だったから、こうして向かい合ってしまうと、何もすることがない
わね。
H どれくらいかかりましたか。
X 二時間くらい。疲れたわ。こんなに歩くの、遠足以来よ。
H 半日歩いても平気になる。それくらいか
な、一人宗教の目的は。いまのところは。
X ふーん。空しいのね。
H 空しくはない。心身ともに、充実してくるはずやけど。
X 本当に、関西弁とのちゃんぽんなのね。教祖としての威厳もないわ。
H 教祖じゃないって。
X じゃあ、なんなの。
H 何者でもない。
X アホらしい。帰ろうかしら。
H 疲れを休めてから、行けばええ。コーヒー代は、払っておきますよ。
X そうするわ。
H 君が持っているのは、写真が撮れるケータイか。もう帰ってしまったが、ネイチヴ・アメリカン友人がいて、その人はパフォーマンスをやっていた。カメラを持って、いろんな人に話しかける。「テイク・ア・ピクチャー・ウィズ・ア・リアル・インデイアン」。俺もやられたけど、反応は、百人百様だったらしいよ。差別の問題まで、ユーモアにくるんで呈示されるわけだ。
X ふふ。おもしろそうじゃない。わたしも見てみたかったわ。
H 泣いている子供も、笑っている女も、怒っている男もいた。それの真似をしてみよう。ネイチヴ・アメリカンよりも珍しい、世界で一人だけの「一人宗教 法一」と。しかし、簡単に真似しすぎかもな。一人宗教にオリジナリテイはないのか。君のケータイのカメラで、我々の記念写真を撮ろう。
今日は、それでオシマイや。
X あなた、ケータイとか、持っているの。電話くらい、あるんでしょ。
H あるけれど、あなたとは一期一会でええやろ。用があったら、訪ねて来なさい。ホームページに住所を載せるよ。部屋の鍵は、かけたことがない。また歩いて、帰るとするか。
X わたしはもちろん、電車で帰るわ。
レジで支払いを済ませた後、店のマスター
に写真を撮ってもらって、幕。